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紙野夏紀さん(イラストレーター、Törtenデザイナー)

ちぎり絵の世界観を布に生かして

2013年に行なわれた第3回コッカプリントテキスタイル賞『Inspiration』
応募総数163通のなかから、みごと大賞を受賞したのが、紙野夏紀さんです。
大賞受賞後、そのテキスタイルは、「Törten(テルテン)」となってデビューしました。
 紙野さんは、ファッション誌や広告で活躍中のイラストレーター。紙媒体のお仕事のほか、2012年にはバーニーズニューヨークのブライダルギフトのデザインも手がけています。

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(コッカファブリックドットコム 以下、KF)現在、イラストレーターとして活躍されていますが、イラストレーターになったきっかけは何だったのですか?

 デザイン関係の仕事をしていたのですが、「腕一本で食べていけたらいいなあ」と思って、大好きだった絵を描く仕事を考えました。
「絵を描く」ということが、どのような仕事になっているかを見回すと、本の表紙や雑誌のカットなんかがあったのですね。それで、出版社に作品を持ち込んだり、個展を開いたりしていました。

(KF) 紙野さんのイラストレーションは、ちぎり絵という独特の手法で描かれています。

 最初は、ペンを使ったり、いろいろな手法を試していたのですが、このちぎり絵が、自分の描きたいものと、自分の技術が合っていたんです。手でちぎると、自分の思ったとおりにはいきません。それがいいのです。最初は大きくちぎってB1サイズ(1030mm×728mm)くらいのダイナミックな風景画を中心に描いていたのですが、作品を依頼される段階で「小さくは描けるの?」と聞かれることも多くなり、小さなサイズの作品も手がけるようになり、モチーフも風景だけでなく、色々なものを描くようになりました。

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(KF)ちぎり絵は、実際にはどのように作っていくのですか?

まず、イメージする色を作って作品の「土台」を作ります。いろんな色の土台ができたら、それを手でちぎって、1枚1枚貼りながら絵を完成させていきます。ちぎった絵を貼るのに使っているのは、市販の液状のりです。

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(KF)描くものはどんなものが多いのですか?

 建築物やインフラ、電車などを題材にすることが多いです。「団地萌え」みたいなもの(笑)。コンクリートの固まりとかも好きですし……。そういった写真もたくさんストックしているんです。

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(KF)すでにイラストレーターとして雑誌や書籍の装画や挿絵、メーカーのプロダクトデザインなど、多方面で活躍されていらっしゃいますが、今回、コッカプリントテキスタイル賞『Inspiration』に応募してみようと思ったきっかけは何だったのでしょう?

 自分のデザインが布になるのは、ひとつの感動、あこがれだったんです。

(KF)審査員のテキスタイルデザイナーの鈴木マサルさんは、「紙野さんの作品から、”新しい可能性”を感じます。何よりも”引きつける魅力”がありました」と絶賛していらっしゃいました。大賞受賞作品の「りんごの木」をはじめ、ちぎり絵の作品が、「Törten(テルテン)」というテキスタイルになってデビューしたのですが、イラストレーションと布、制作するうえでどんな違いがありましたか?

 戸惑ったのは色替えです。イラストレーションは、自分の塗った色が完成作品になりますが、布は自分の塗った色以外も指定して、配色を作らなければなりません。くすんだ色が好みなのですが、それを布にするとぼやけた感じになってしまって……。
なかでも大変だったのは、ジョイントと言われる、生地の送り部分です。布はここで模様をつながなくてはならず、そこがきれいにつなげないとB級品になってしまうんです。
「Törten(テルテン)」のなかでもノーストリップは、大柄ゆえにそのジョイントがなかなかうまく行かなくて、何度も試作させてもらいました。

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(KF)(KF) デビュー作「Törten(テルテン)」は、まさに満を持してでき上がったという感じですね。紙野さんの世界観を、「布」というフィールドに落とし込んだことにより、洋服やバッグなど身近なものとして楽しめるようになりました。

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(KF) ファンにとってはうれしい限りですね。第二弾も楽しみにしています!