visit artist file 013 大道くららさん (デザイナー)

言問はむ――言葉の先に現れるもの

隔年ごとに開催されるコッカプリントテキスタイル大賞『Inspiration』。その第4回大賞受賞者に輝いたのが、大道くららさんです。ブランド名の「Koto Thouin (コトトワン)」は、「言問はむ」で、“尋ねよう”、”問いかけよう”という意味。テキスタイルのデビューと同時に、ISSEY MIYAKE INC.のブランド「HaaT」(ハート)の春夏コレクションにも抜擢され、好スタートを切った大道さん。大胆な柄に独特の配色……、一連の作品に現れる感性はどのように磨かれていったのか、そして、布作りにおいての新しい発見は? 幼少時代のユニークなエピソードも交え、様々な角度から「大道ワールド」を見つめてみました。

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Kokka-fabric.com (コッカファブリックドットコム以下KF)大道さんの幼少時代のお話を聞かせてください。

 宮城県仙台市に住んでいたのですが、「カンガルー幼稚園」というユニークな幼稚園に通っていました。この園は、園長先生の方針で、創作意欲や感性を磨くことに特化していたんです。近くに沼があったのですが、毎回みんなでそこに遊びに行って、葉っぱとか枝とかを拾って帰ってきて、それでものを作ったりしていました。印象に残っている最初の「描く」という行為は、通っている子どもたちの誕生日が来ると、その子を模造紙の上に寝かせて、その子の輪郭をなぞるように、みんなで縁どるんです。いわば、誕生日の身長ですよね。そしてまわりにその子の好きなものを描いたりして。
 そのときに、ああ、描くって「行為」なんだなって認識したというか。描いているっていうことをちゃんと認識した始まりでもあったんです。そういう特化した幼稚園に入っていたということが、第一歩だったのかなって思います。母親が入れてくれたのですが、ありがたいですね。

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(写真は、小学生の時に作った帽子。)

(KF)お母さまもクリエティブな活動をされていたのですか?

 なんだろう? なにやさんだかわからないような人(笑)。なんでもやりたいって感じの人で、本業はスイミングのインストラクターなんですけど、プロのマジシャンに習って、マジシャンになっていたときもあったり、現在は料理教室やらアロマテラビーやら、心理カウンセラーもやっていたり……。昔からいろんなものに興味があるというか、視野が広い人であったことは確かですね。それなので子どもにも何でもやらせたかったのではないかなって。

(KF)幼稚園のときの経験が今につながっているということですね。小中学校は普通の学校に進まれたのですか?

 はい。中学校のときは、美術部と演劇部に所属していました。演劇部は、結構、大規模で人数も多かったので、背景の美術とかまでやりました。小道具も制作していました。高校では、これも母の血なのかと思うほど(笑)、美術部と長刀(なぎなた)部、生物部に所属していました。

(KF)その後、宮城大学のデザイン情報学科に進まれます。

 当時できたばかりの大学で、そこの空間デザインコースという、設計をやる科に、中田千彦先生という有名な建築家の方がいらっしゃったので、習いたいなと思って入りました。でも、実際にやってみて、設計が合うかといったら、合わなかったということもあり(笑)。

(KF)どのあたりが違ったのですか?

 平面図を書くのは好きなんですけど、それを立体に起こしたときのギャップがあって。平面図というのは、空間構成や設備を配置することも考えたうえでの図面なのですが、平面図をひたすら分割するというか、有名な方の設計図をコピーして、コラージュじゃないですけれど、いろいろ自分で配置して、それを平面図として見たときの印象を楽しむような学生でした。だから、設計の点数はよくなかったですけど(笑)。
 建築や人の動線、コンセプトを考えることは全然嫌いじゃなかったんですけど、それでちょっと苦しくなってしまって……。染料とかを買ってきて、独学で布を染め始めたというのが、テキスタイルをデザインする最初のきっかけだったのかなって。

(KF) 学生時代に作った作品には、どんなものがあるのですか?

  文化祭のときに、映像を作っていた子と一緒に、半立体のソフトスカルプチャー(彫刻)みたいなものを制作しました。この作品が、「Koto Thouin」の「おどけて歩く」の原型となったものです。

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 全体にわたが入っています。布に手描きしたのですが、当時は知識がなかったので、材料を探すのに仙台の手芸店、マブチさんに行って、布や顔料を揃えました。仙台では、布といったらマブチさん。幼少期からお世話になっています。ほんとマブチさんがなかったら、どうなっちゃったんだろうと思います(笑)。

(KF)大道さんの興味・関心が、次第に設計からアートへ移っていったのですね。大学の卒業制作はなんだったのですか?

 大きな布に遠景、中景、近景というようなかたちで風景を描いて、これを画面上で3Dとして立体化させました。あるかたちを断面で分けていってパターンを作り、それをもう一回再構築する。そして、わけたピースを立体に立ち上げて、遠景を描いた布に貼る。実際はボンドで貼るという単純な作業なのですが、3ミリごとにそのピースを貼りつけて、再立体にします。再構築したときに、ピースの影が布に落ちるんですね。その影をも含めたうえでの遠景、中景、近景みたいな、布の表現をしました。

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 入学当初希望していた中田先生のゼミではなく、ビジュアル情報処理が専門の蒔苗耕司先生のゼミに所属したこともあり、AR(デザイン情報でいうところのARツール。今でいうところの拡張現実)寄りな卒業制作になりました。
 ほかの人はシステムとかを作って卒業設計というかたちだったんですけど、私は実際に作品をつくりました。教授や学生の前で私自身の作品を見せながらプレゼンをした際に、私の作品自体を見ている人はあまりいませんでした。たいていの人は、作品そのものでなく、パソコンを見ているといった状態だったんです。
 私自身の作品に興味を示していないための反応と言ってしまえばそれまでですが、その時にふいに感じたのは、自分が制作した作品は、ネット世界――ピクセル一つ一つに溶解してしまったかのような人々の意識を再構築したものなんじゃないかと。ネット上で得られた情報を知識としてフィードバックさせ、蓄積させることで、現実世界で自らを新たに再構築できるのか? そんな問いかけをしたかったんじゃないかなと、のちに思いました。
 発表者のほとんどがシステム設計で、私のように仮想現実ではない実際に手で触れられるものを制作したのは少人数で、ほんの少し肩身の狭い思いをしていたがゆえの反骨精神のようなものだったかもしれませんが……。

(KF) 大学卒業は上京されました。

  文化服装学院に入りたかったので、1年働いて、夜間(二部・服装科)に入りました。諸事情があって退学してしまったのですが、文化服装学院の方々からはとても刺激を受けました。とくに2年間、担任していただいた上野先生は、本当に素晴らしい先生でした。ご本人もパタンナー、グレーダーとして活躍されていて、ときおり『装苑』でもグレーディングを担当された型紙が掲載されています。技術として的確で、本当に尊敬できる先生でした。

(KF)  大賞を受賞なさったときは、確か、アンティークショップで働いていらっしゃいました。応募書類のプロフィール欄に「古物商」とあり、審査員のみなさんも興味を持たれていたようでした。

  はい、いろんな職についているので、志茂田景樹ばりに(笑)。当時は、西荻窪にあるアンティークショップでリペアの仕事をしていました。椅子の座面を張ったり、入ってきたものを修復したり。とても興味深い仕事でした。華やかな仕事というより、実際は買い取りしてきたものの汚れをこつこつと落とすなどの仕事なのですが。いろんな有名な国宝の方の作品も入ってきたり、目利きにはなりましたね。アンティークショップというよりも美術商に近いような。本当に修行させていただいたという感じです。

(KF)今はテキスタイルデザインのほかに、どんなお仕事をされているのですか?

 いろいろな方の縫製も手伝いつつ、カゴや箒、まな板などの生活用品を販売する道具屋で働いています。カタログの表紙イラストを担当させていただいたり。

(KF)さまざまなお仕事の経験が有機的にテキスタイルデザインにつながっているような印象を受けます。お仕事のほかに、大道さんは短歌も詠まれています。これもとても興味深いですね。

  とくに歌会に入っているというわけではないのですが。大学の卒業制作のときに、若干、短歌をふまえた感じの制作ではあったので、そこから興味を持ちました。もともと日本語の語感が好きで、昔から国語辞典をひたすら読むのが好きみたいなのがところがあって。こんな言葉があったんだとか、ひとつの意味に対しても、いろんな言葉があるなって。
 日常生活のなかで飛び込んでくる会話にも興味があるんです。たとえば電車のなかとか、いろんな会話が聞こえてきますよね。そういう人たちの会話の流れを聞いたり、そういう暮らしがあるんだなあって、ふと思ったり。いろんな会話があって、それぞれの言葉があって、それを聞いたときに、違うときに聞いた言葉や誰かの言葉が同時に映像として、フラッシュバックじゃないですけど、同時に浮かんでくるときがある。それぞれの言葉のピースが、なんだろう、ある瞬間、つながる。つながる瞬間っていうのが、はっと気づかされる瞬間でもあって。言葉を直接、布にするのは難しいんですけれど、そういう言葉のいろんなストックが組み合わさったときの、ピースがかみ合ったときの、エネルギー量が作品にはつながるのかなって思った瞬間はあります。

(KF)なんか、すごい奥深い話ですね。言葉のピースが浮かぶときは、ビジュアルとしても浮かぶのですか?

 はい、ビジュアルとしても浮かびますね。そんなこともあって、布もやりたいんですけれど、映像制作もしてみたいです。やりすぎるといろいろ路線がわからなくなってきますが(笑)。映像投影して布を表現することとか、できないかなって。
 たとえば、足踏みミシンってあるじゃないですか、踏むとカタカタという音がする。映画のフィルムも同じく、カタカタカタって鳴るじゃないですか。インスタレーション的な感じで、布を縫う作業をしつつ、その縫っている布にカタカタカタと踏むのと同時に映画のフィルムを投影させて、何か記憶を引き出すような、面白いことができないかなっていうのを、映像を作っている方と今お話しているんです。柄を映像にのせて、私が直接それを映像で縫うとか、面白いかもしれないですね。実際には、真っ白な布に、映像としての柄を投影して、投影した布に直接、私が刺繡をしていく、みたいな。実際には布にはなにも描かれていないけれど、映像としては柄があるように見える。それを映像で見せたり、ライブとしてやったら、すごく面白いと思うんですけどね。
 布を使った空間演出のような何かができないかなって思ったりはします。そういう意味では、最近は空間デザインを考えるようになってきているのかなと。

(KF)大学時代、建築・空間から離れましたが、逆にそこにつながっていくのかもしれませんね。

  気がついたらってパターンですかね(笑)。戻ってた! みたいな。確かに最近は、空間表現として探っています。

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(KF) 上の作品は、布に絵を描いて、その上から刺繡をしています。これは何か意味を込めているのですか?

 学校で手芸の授業があって、その課題として刺したものです。もとから刺繡の行為自体が好きで、やっているうちに頭が活性化するというか、自分の心理的な作用のためにやっているということもあるんです。
 幼少期のときの話に戻るんですが、手芸のきっかけは、祖母の編み物。ちょうどそのとき編みぐるみが流行っていた時期で、それこそマブチさんでキットとか材料とか買ってきて、祖母と一緒にムーミンを作ったのが始まり。でも、作ったムーミンをムーミンのままでは置いておけなくて、もう一回ほどいて違うものを作ったりもしていました。「編む」っていう行為自体が好きでやっていた感じですね。

(KF)興味深いエピソードが尽きませんが、お話を「Koto Thouin」のほうへ進めさせていただきます(笑)。2015年にプリント大賞で受賞してから、実際に布になるまで、およそ1年半。時間がかかっていますよね。今回出したのは4柄。どんなふうに決めていかれたのですか?

 やはり「裏山の正面」がすごくインパクトがあったようで、これが最初に決まりました。

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「裏山」が大柄だったので、あとは、中柄、小柄という感じで。どれもギザっとしたイメージなので、丸みのあるものもあってもいいということになって、「おどけて歩く」が加わりました。

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(KF)布は柄を決めてから、配色パターンも決めなくてなりません。このあたりは、大道さんの布を担当したコッカの櫻井さんに伺います。

 (コッカ・櫻井)印刷に使うスクリーンは、24インチと30インチがあります。染工場さんでは、ベルトコンベアーの上を生地が流れていて、そこにスクリーンが並んでいるんですけど、24インチだと最大16色くらい使えるのですが、30インチという大きいスクリーンになると、だいたい12色くらいがマックスになります。大道さんの色はトーンでまとまっていますが、実際はかなり色数があるんですよ。色数がスクリーンではまかないきれないところは、「このピンクと薄ピンクを一緒にしてもいいですか?」など、相談をさせてもらいながら、柄を詰めていくという感じです。

(KF)小さいスクリーンのほうがたくさん色数を使えるということですね。

(コッカ・櫻井)そうです。型が大きいとそのぶん、ベルトコンベアーのなかに入る枚数が少なくなるので、使える色数が少なくなるんです。

(KF)なるほど。それでは、再び大道さんにお尋ねします。布を作って行く工程で、面白かった、あるいは意外に難しかったのはどんなところでしょう?

 テキスタイル科とかを出ていらっしゃる方と違い、まったくほんとド素人なので、大賞をとらせていただいたうえで、勉強までさせていただいたという感じです。私の場合、描いている柄が大柄なので、ちっちゃい柄を考えることが本当に難しく、わからないという部分があったので、落ち葉を刻んで考えてみたりしました(笑)。どうやったら小さい感じで、自分らしさというか面白さが出せるかな、というのもありましたし、生地の素材に対して、この柄で合うかなと考えてみたり。
「あいまいな思いでづくり」にダンガリーを選んでくれたのは櫻井さんなんです。「これはダンガリーにしてみたら、面白いんじゃないですか」と提案してくれて。実際にできたものを見たときに、あ、ほんとに面白いものができた! って感じでした。どんな柄ができあがるか、予想ができなかったのが、この柄だったので。そこは櫻井さんチョイスというか、プロの方と組んだことによって実現しました。

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(KF)「Koto Thouin」のパンフレットは、銭湯でロケをされています。富士山をバッグに洗い桶を持った姿はインパクトがありますね。

「裏山の正面」というのをビジュアルとして表現したくて、高身長のモデルさんに「裏山の正面」のワンピースを着てもらい、ドーンと立っている姿をまずトップに持ってきました。単純に山だからというので富士山。撮影したのは東京・蒲田の銭湯です。実際に行ったこともあったので、ここを使わせてもらいました。

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(KF)「Koto Thouin」は、ISSEY MIYAKE INC.のブランド「HaaT」(ハート)の春夏コレクションにも選ばれました。

 3月に行われた伊勢丹新宿店の初日に行かせていただきました。けっこうなスペースで、スタッフの方が全員、このコレクションの洋服を着ていらっしゃって、まるで自分が作ったものじゃないかのようでした。

(KF)ほんとに素晴らしいことですよね。今後の大道さんの活動予定を教えてください。

 6月、9、10月と個展を行う予定です。この生地のお披露目会じゃないですけど、シャツの要望が多いので、シャツを作る予定です。作るのが大変なんですけどね(笑)。

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(KF):個展も楽しみですね。今後の活躍も大いに期待しています! ありがとうございました。

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