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みんなで編むと楽しい!「港まち手芸部」ルポ

「スタッフコラム」では、コッカファブリックの運営スタッフがキャッチした気になるモノ・コト・スタイルをお届けしています。第3回目は、名古屋市港区で活動をする「港まち手芸部」を紹介します。手芸部の企画・運営を手がけるアーティストの宮田明日鹿さんにお話を伺いました。

地域の人々が集う「手芸部」って?

「港まち手芸部」を知ったのは、2025年12月に訪れたTOKYO ART BOOK FAIR。名古屋の出版レーベル、ELVIS PRESS / ON READINGのブースで見つけた赤い表紙の本、『knitting’n Stitching Archives.』でした。どうやら地域の人たちが集まって編み物などをしている手芸部があるみたい。面白そう。

本には手芸部員が作った多くの作品が掲載されていました。なかでも釘づけになってしまったのが、喜岡淳子さん作の親猫と子猫のセーター。ピンクの子猫のセーターは、40年近く前に手芸書のレシピを参考に娘さん用に編んだもの。親猫のセーターは、子猫のセーターを大人用サイズで編んでみたものだそう。

喜岡淳子さん作 『knitting’n Stitching Archives.』より

「教室」ではなく「手芸部」という活動に興味を覚え、この本の著者、宮田明日鹿さんにお話を聞いてみることにしました。宮田さんは、手芸や改造した家庭用電子編み機などの技法で作品を制作しているアーティスト。2017年に名古屋市港区にある港まちづくり協議会の提案公募型事業として「港まち手芸部」を立ち上げ、現在は委託事業として宮田さんご自身が運営しています。

撮影|岡松愛子 写真提供|港まちづくり協議会

「私自身がかぎ針や棒針を習いたいと思って、この地域に住んでいる手芸の達人に教えてもらえたら・・・と思って立ち上げたんです。地域の手芸店を営んでいた、当時91歳だった方に手芸部の先生をお願いしました」(宮田さん。以下同)

「手芸部」と名づけたのは、なにをやってもいい前提だから、とのこと。現在、手芸部には、港まちに住む人々を中心に20代から90代の人が集まっていて、編み物をする人が多いそう。

「港まち手芸部の活動は作るものが決まっていないので、それぞれのペースで、やれることをやる、という感じなんです。みんな違うことをやっているのに、先生をお願いした方に、『次はどうやったらいい?』って聞くと、なんでも答えてくれて、手芸に関して培ってきた技術のすごさをまのあたりにしました」

撮影|岡松愛子 写真提供|港まちづくり協議会

ほめあう、学びあうが大事!

課題もゴールも決まっていないけれど、手芸部に参加すると、知らず知らずのうちにみんながステップアップしていくそう。その秘訣は、みんなでほめあうことと学びあうことだと宮田さんは言います。

「編み物だけはどうしてもできなくて、という方に、まずはくさりから編んでみてって。くさりができたらこま編み、こま編みができたら長編みをやってみて、という感じで進めていきます」

指編みからやってみたらできるようになった方もいたそう。意外にできるんだって驚かれることもしばしば。

「作るものは流行りもあるので、誰かが編んでいるマフラーが『いいね!』となれば、さっそく教えてもらって編んでみたり、変わった技術を見たらやってみたいとなったり。それぞれがやっていることをシェアしあって広がっていきます。何か新しいことが知れるので面白いと言って来てくださる方も多くて。作ったものをここに持ってきたら、みんなに見てもらえるし、アドバイスももらえる。ほめてもらえるのも嬉しいんですよね」

撮影|岡松愛子 写真提供|港まちづくり協議会

一本の糸から形が生まれる面白さ

宮田さんご自身は、手編みのほか、改造した家庭用電子編み機などを用いて作品を制作しています。さまざまな手芸のなかで編み物ならではの楽しさはどんなところなのでしょう?

「編み物は一本の糸で形ができていくのが面白いなあと思います。特に編み目が好きで。減らし目とか増やし目をしながら立体を作れるし、かぎ針で編み図を見ずに自由に形を作ることも楽しい。ゴールを決めずに面白い形も作れます。編み物は自分の手の範囲内でできるし、話しながらできたりもするので、みんなで集まって行うにはいい手仕事だと思います。編み図を見ている人は、今、数を数えているから話しかけないで、ってなりますけど(笑)」

撮影|岡松愛子 写真提供|港まちづくり協議会

作り手のストーリーにときめく手芸部展

宮田さんの本を読んでほどなく、港まち手芸部では年に一度の「手芸部展」を開催していることを知りました。なんとちょうど開催中! グッドタイミング! 手芸部の活動拠点と作品に会いたくて、東京から新幹線で名古屋へ。

名古屋から地下鉄を乗り継ぎ、名港線の築地口駅を降ります。ほどなく現れる商店街のアーケードを進んだ先に手芸部の活動拠点である「港まちポットラックビル」がありました。かつて文具店だったビルを再生した空間は、古い佇まいを残しながらもギャラリー風にリノベーションされ、アートの香りが漂います。

中に入ると、港まちづくり協議会の方が出迎えてくれました。協議会の事務所もこのビルに入っています。1階奥の小上がりのソファコーナーが手芸部の活動場所です。

開催中の手芸部展はこのビルの3階。広々とした空間に、手芸部員の作品が美しく展示されていました。セーター、帽子、マフラー、繊細なレース編み・・・作品解説のパンフレットとつけ合わせながら、一点一点作品を眺めます。誰のために、いつ作ったのか——文章に綴られた作り手の日常が作品とリンクしていきます。

段ボールの織り機で作ったという小学生の作品も。説明書きのメモがなんとも微笑ましい。

みごとなメリヤス刺繍のセーターの編み手は千種貴子さん。なんと25年以上前に編みかけた未完のセーターを、この展示に向けてついに完成させたそう。

別の壁面には、部員の方々のスナップ写真がズラリ。手芸部の活動を記録している岡松愛子さんが撮った写真で、みなさんとびっきりのいい表情! 作品の展示会場にこんなふうに作り手のポートレートがあるなんて素敵すぎる! 宮田さんいわく、最初は恥ずかしいという方も多かったけれど、毎年恒例になっているので、楽しんでくれている方も多いそう。

テーブルの上には今までの活動記録のファイルが置かれていました。部員たちの手書きの編み図がたくさん。なんと「港まち手芸部」の歌まであったのにはびっくり。

作品展示、作り手のポートレート、活動記録・・・。手芸部展の空間にいると、「港まち手芸部」というコミュニティに飛び入り参加させてもらった気分になりました。

現代アート展に手芸部員の作品が並んだ!

宮田さんとのやり取りのなかで「東京の森美術館で『六本木クロッシング2025展』に参加しています。手芸部のアーカイブを展示しているので、東京でも見ていただけます」と教えていただき、こちらにも足を運んでみることに。

「六本木クロッシング」とは、森美術館が3年に一度開催し、日本の現代アートシーンを紹介する展覧会。え? 現代アート展に手芸作品が? 若干違和感を覚えながらも会場をずんずん進んでいくと、ありました、ありました「港まち手芸部」の展示コーナーが。懐かしのわが家にたどり着いた気持ちになりました。

広々とした白い壁面には、大人向けのセーター、チョッキ、子ども服、小物がリズミカルに飾られています。巾着やバッグは小さな棚に。作品の作り手は宮田さんの本に掲載されている7名の方。どの作品も展覧会のために作ったものではありません。期せずして展示された作品たちは、日常の空気をそのまま纏い、ちょっぴり気恥ずかしそう。でも、どこか誇らしげです。

天井からは棒針編みのケープやレース編みのテーブルクロスが吊るされ、普段とは違う使い方でインスタレーションとして空間を彩っていました。

中央のスペースにはテーブルが置かれ、ガラス天板の中には本や刺繍を施したブックカバー、⼱着などが展⽰されています。なんとこのテーブルは宮田さんがデザインしたものだそう。「2022年の展示から使っていて、欠けたら金継のように直して使い続けています」

展示作品の作り手も森美術館に見にいらしたそう。写真左が喜岡淳子さん、中央が宮田さん、右が山本久美さんです。

写真提供|宮田明日鹿

喜岡さんは作品が展示されることにびっくりしたそうですが、会期中の出張手芸部企画でいろんな人に出会えること、参加者どうしで話すことが面白く、ご自身の技術を教えられることを楽しんでいらしたそう。

森美術館での展示は、宮田さんにとっても意味深いことでした。
「この展覧会に手芸部のプロジェクトで参加したということが、今の時代においてどういうことなのかと、考えるきっかけになりました。手芸を続けてこられた方への前向きなメッセージとしてとらえてもらえたら嬉しいです」

喜岡さんが編んだ猫のセーターは、その後、宮田さんご自身も編んでみたそうで、愛猫のタネと一緒のお写真を送ってくれました。

写真提供|宮田明日鹿

小さな赤い本に出会ったことから始まった「港まち手芸部」のルポ。宮田さんが立ち上げた手芸部の活動は、今では「金石手芸部」(金沢市)、「有松手芸部」(名古屋市)、「せんだまち手芸部」(広島市)、「本町手芸部」(珠洲市)と、じわじわと裾野を広げているそう。わが町にも「手芸部」ができたらいいな。喜岡さんを出張手芸部にお招きして猫のセーターを編んでみたい! (取材・文、撮影:須藤敦子)

港まち手芸部について

名古屋市港区にある港まちづくり協議会の提案公募型事業として採択(2017-2023)され、現在は委託事業として宮田明日鹿さんが運営する企画。さまざまな世代が集って参加者どうしが「手芸、人生を学び合う場」であり「家の中のことを外に出してみる」実践として継続している活動です。
web: https://asukamiyata.com/works/minatoshugei/

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