染めやプリントなどの手仕事を活かした服作りに定評があるファッションブランド、「spoken words project」。飛田正浩さんはそのブランドを率いるデザイナーです。洋服のほか、アーティストのライブ衣装や舞台美術、テキスタイルデザインなども手がけ、ファッションの領域を超えて活動しています。2016年6月、「spoken words project」とコッカのコラボレーションブランド「3min.」(スリーミニッツ)が誕生。常に新しい世界を追い求める飛田さんにデザインワークの背景をお伺いしました。
とにかくひとと違うことをやりたくて、負けず嫌いでしたね。
母が文化服装学院の出身だったので、小さい頃から母が作った洋服を着せられていました。僕は結構喜んで着ていましたけど。
ファッションに興味を持ち始めたのは中学生時代。毎月のように原宿の古着屋に通っていました。当時は今よりもっと古着屋が多かったんですよ、高校時代にブランドブームが訪れてからは様変わりしましたが。
高校進学を考えたとき、学区外のデザイン科のある高校に進みたいなと思ったんですけど、父親が固い人だったので、それは叶わず。結局、普通の高校に進みました。
高校時代はクリエイターになりたかったんですよね。広告も好きだったので。ちょうど糸井重里さんがコピーライターとして活躍していた頃で、すごくお金をかけて作られたテレビCMを見て育ちましたから。
言葉に対して敏感になっていったのは、小さいときから母親に無理くり本を読ませられていたせいかもしれません。中学生なのに村上龍の『限りなく透明に近いブルー』とかね(笑)。
コピーライティングについては、中高生のときに『ポパイ』、『an・an』といった雑誌でやっていたキャッチコピー大賞などに応募して、賞を総なめするようになりました。
そしてもうひとつが音楽。アイドルタレントも好きでしたが、兄貴がバンドをやっていて、その影響でロンドンのパンクなんかも聴いていました。サザン(サザンオールスターズ)も好きだけど、兄の前では聴けない(笑)。ハッピーエンドや山下達郎といったアーバンソウル系にもハマりましたね。
父がとにかく固い人間でしたので、アートをやりたいなら、藝大(東京藝術大学)に行け、藝大だったら許す、と言われて……。藝大を目指して美大予備校に通いつづけました。結局、藝大には受からず、最終的に多摩美に進むことになるのですが、浪人生だった4年間に、デザインやアートを片っ端から、まさにスポンジのように吸収していきました。この経験が後々すごく役に立っています。
3、4年生のとき、とにかく思いついた言葉をA4の紙にコピーして、大学構内にたくさん貼っていったんです。「town」とか、「sex」とか。そんなことを続けていたら、現代美術の先生がおもしろがって僕の言葉を全部並べて最初の大文字を並べて分析するなど深読みしてくれて……。もっとビジネスにつなげたほうがいいとアドバイスしてくる学生まで出てきました(笑)。
そんな感じでspoken words、つまり、詩や話にまつわるプロジェクトを始めたんですよね。高校時代からバンドをやっていたんですけど、そんなヤツはたくさんいるから、観客を集めるのもなかなか苦労する。そこで「spoken words project presents」なんていうキャッチコピーをつけてみて、「お、このバンドは何か違う」って思ってもらおうとしたんですね。
その後、ポエトリー・リーディングのイベントにも参画し、自分たちのバンドにもその手法を取り入れてみようと試みたり……。でもそれはうまくいかなくて、結局、バンドは大学4年のときに解散しました。
4年間浪人していたとき本当に勉強しましたから、いざ大学に入ってみると、刺激的なことがない。美大にくるヤツは、みんな自分たちの作品作りにのめりこんでいるだろうと思ったら、意外にあっさり。拍子抜けしちゃってあまり授業には出ませんでした。先生たちの温情で単位をもらい、留年すれすれでなんとか卒業しましたけれど(笑)。
洋服は大学4年の卒業制作で作りました。これが面白かった。「あ、自分のやりかったことってこれだった」って気づいたんですよね、なんと卒業制作で初めて(笑)。そのとき、洋服を作る作家になりたいと思いました。
(写真:写真で写っている洋服は、多摩美術大学の卒業制作のもの。スケッチは大学卒業後すぐに、自費出版した本より。)
当時、自分のまわりには、純粋に彫刻や絵を描きたいという人が多かった。みんな日銭を稼ぎながら、作品を作る。それが普通だった。自分も美大予備校の先生のバイトで生計を立てながら、服を作っていたんです。
でも、既製服を作る教育を受けていない。そのことに対してコンプレックスがあったんですね。それでステージ衣装を作っている人の仕事を見て、こっちならできるかもと思い、まずはそこから始めました。
正直、これでいいのか、という迷いは絶えずありました。自分の進むべき道を探ろうと、コスチュームアーティストのひびのこづえさんに会いに行ったんです、自分の作品ファイルを持って。彼女は日常着ではない服を作っていたのですが、僕のファイルを見るなり、「迷っているね〜。まずは百着作れ!」って言ったんです。百着も作れば、どんな服を作りたいのかが見えてくるはずだって。
それで、作り始めたんですよ、必死で。当時、住んでいた三鷹の6畳と4畳のアパートで毎日、毎日作りつづけました。でも30数着で挫折(笑)。
ゆくゆくはパタンナーという存在を知るのですが、当時は知らなくて、ジャケットの肩の作り方だけでも、2か月かかりました。それでも服作りに没頭することで、既製服じゃなくて、作品としての服を作っていこうと心が決まりました。
ひびのさんに会って作品としての服作りを始めたのが、大学を卒業してから3、4年経った頃。でも四浪しているからもう30歳前半。服で食べてゆくにはどうしたら良いか? の試行錯誤をつづけつつ、駆け出しのカメラマン、モデル、ヘアメイクなど、知り合いで集まってフォトセッション(作品撮り)をするようになります。やがて「ショーやろうよ!」という話が持ち上がり、ショーが始まりました。入場料を取って、クラブイベントの一環として。
ファッションブランドにとってのショーは、ミュージシャンでいうところのライブと同じ。焦燥感もあったし、アートの作品展をしつづけたいという思いもあった。多くの人に見ていただく術としてショーをつづけたんです。タイミングよく東京コレクションにデビューすると雑誌にも取り上げられるようになり、そうなるとショーもだんだん大きくなって、やめられなくなりました。
作品としての服作りをつづけていましたが、ショーに出始めると、それでは間に合わず、制作スタイルが自ずと既製服中心に変わっていったんです。バイヤーから受注を受けた場合、1点物ではマズいという判断もありましたし。自らは手を染めず、パタンナーと生地屋さんと一緒に服を作る、そんな感じです。でも、2、3日展示をやって、ビジネスの話につながるのは、せいぜい0.5人くらい(笑)。ショーの規模がどんどん大きくなるにつれ、資金繰りは厳しくなる一方。両親にお金を援助してもらったこともありました。
全くビジネスにもならないおかしな熱病的なショーはつづかず、あらためて何がやりたいのか考え直しました。
もともとやりたかったことをやろうと決め、既製服ではなくて、再び作品として1点ずつ作るようなやり方に変えました。そうしたら、ここからビジネスになっていったのです。
エージェントと組み、作品としての洋服を作っていくなかで、ユナイテッドアローズ、ベイクルーズ……と、自分の服が一通りお店に入るようになりました。作品だと思って作ったものが、アローズのショーウインドウに並んだのを見たときは「やった〜!」って思いましたね。
2006年、ちょうどcoccaのショップを立ち上げるときでした。当時、coccaのプロデューサーを務めていたバーデンバーデンの森千鶴子さんに誘われて、生地作りやテキスタイルデザインを一緒にやることになったんです。今まで、作品として作る生地は量産できないと思っていたのですが、それが量産体制で作り出せることを知ったのは大きかったですね。
現在、coccaのクリエイティブディレクターを務める森香菜さんと、「いつかはコッカと一緒にブランドを立ち上げたいね」と話していたんです。テキスタイルの先にあるものして、立体まで提案できるような。そこで、ファッションブランドとして、みんなに縫ってもらうブランドがあってもいいんじゃないかと考えました。それが3min.です。
(写真:東京・渋谷で開かれたコッカの6月展示会でデビューした3min.ソーイングのインスタレーションも行なわれた。)
今や、おばあちゃんが作った煮物が堂々とグラビアに載る時代。ファッションはパリコレが最先端と言われていますが、パリコレですら何が新しいかをはっきり言えなくなってきています。
僕はそんなに器用じゃないから、トレンドをキャッチしていくようなビジネスはできない。自分がいいと思うものを、自信を持ってやらないといけない。追う流行がないならマイブームを追うしかないわけで。そのマイブームが「3min.」でもあります。
もし1着でも自分で服を作ったら、きっとその人は自分のワードローブを開けてみて、「あ、この服の裾、もっと短くていいかも」と、自分でジョキジョキとカットしだすんじゃないかなって思うんです。
できあがった服を買うのではなくて、自分で作る楽しさがわかってくる。それは、料理を買って食べるのではなく、自分で作って食べる時のおいしさと似ているかもしれませんね。
かっこいいビジュアルであり、生地そのものの魅力ではないでしょうか。
もちろん提案する商品そのものが、まず「良いもの」である事が大前提です。その「良いもの」の良さを的確に伝える事も、このあまたある日々の情報の中ではとても大切になっていきます。 僕は、今はデザインの時代、コミュニケーションの時代だと思っています。良いものを作っていても、古い考え方のせいで、うまく伝わっていないものも多く、それはとても残念なことですよね。
今回はこの感覚を共有できると感じたグラフィックデザイナーの長嶋りかこさんにお声がけしました。「手作り」といった、下手するとホッコリとしがちな方向性を写真や文字組み、webなどで、このブランドのアティチュード(姿勢)を示していくことでソーイングの現場に新しさを提案していきます。
小さい頃、父親に否定されたり、四浪したりと、紆余曲折、いろいろ経験したからではないでしょうか。
四浪したときに、デザインやアートをスポンジのように吸収したと言いましたが、そのときの経験とか、多摩美で染織デザインを学んだこととか、そういうひとつひとつの経験の蓄積がアイデアを生み出す原動力になっているように思います。
面倒くさいし、遠回りしてきたけれど、ひととおり実験しないと気が済まない(笑)。もともと見たこともないものをやりたいという気持ちが強いので、前例がないから、どうしていいかわからないし、時間もかかりますけど。
型紙と生地、これにプラスワークショップが必要と思っています。うまく言葉にはならないけれど、既製服と手作りの中間みたいなところも、かたちにしていきたいと思っています。60%までできている服、みたいな……。
今年8月から3min.の公式サイト(http://3min.info)でも販売がスタートしました。第1弾はAWコレクション。秋冬素材にプリントしてあるものは市場にあまりないので、あえてあったか素材にプリントしてみました。
第2弾となる2017年のSSコレクションは、「サラダ」がテーマ。現在、鋭意制作中です!
コッカファブリックの3min.の紹介はこちらです。
//kokka-fabric.com/wp-kokka/textile-story/3min/
//kokka-fabric.com/wp-kokka/textile-story/3min-2/
2016年の展示会の様子はこちらでレポートしています。
//kokka-fabric.com/wp-kokka/inspiration/inspiration-file112/