visit artist file015 吉本悠美さん(テキスタイルデザイナー)

日常の風景を抽象画のように模様に落とし込む

2013年にコッカプリントテキスタイル賞『inspiration』で審査員特別賞を受賞した吉本悠美さん。2016年には、「風景画を飾るように、生活を彩る布」をコンセプトにした「KESHIKI」(けしき)でテキスタイルデザイナーとしてデビューしました。大胆かつ軽やかなテキスタイルを生み出す吉本さんにお話を伺いました。

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Kokka-fabric.com (コッカファブリックドットコム以下KF)吉本さんは、東京造形大学、そして東京造形大学院でテキスタイルデザインを学ばれています。テキスタイルに興味を持ち始めたのはいつ頃でしょう?

 じつは多摩美のグラフィックが第一志望だったんです。でも予備校に通っていたときに、多摩美のテキスタイル出身の先生に、滑りどめにテキスタイル科を受けてみるように勧められて・・・。多摩美のグラフィック科と併願できなかったので、造形大学のテキスタイルを受けたんです。結局、多摩美には受からず、造形大学に進みました。

(KF)グラフィックへの未練がありました?

 大学時代、油絵をやりたくなって、人の顔とか描いていました。グループ展も開いたり。やっぱり絵で生きていこうって思いました。アートにすごく興味が出てきて、多摩美の文化祭にもぐり込んで、コンテンポラリーダンスのようなパフォーマンスショーに参加していました。
 3年に進むと、ようやくデザインを学べるようになりました。このとき鈴木マサルさんの授業で、デザインしたものをプリントする課題があって、手描きにこだわって原画を描いたんです。このとき初めて、「あ、布を作るのって面白い」って思いました。
 卒業制作では、日々の生活の楽しさみたいなものをテーマに衣服を作りました。生活の風景を模様にしてプリントしました。裁断方法を工夫して柄の見え方にバリエーションがでるようこだわっていた気がします。指導教官はファッションデザイナーの清家弘幸さんにお願いしました。

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(KF)それで大学院に進むことを決めたのですか?

いえ、大学を卒業したら就職しようと思っていて、ファッションのインターンにも行ったんです。太田雅貴さんが手がける「OHTA」(http://ohta.info/)というブランドにインターンに行ったとき、そこでのものづくりを見ていたら、アパレル企業でいち社員として働くよりも、やっぱり自分でつくりたいって思ったんですね。それでもう少し勉強したいと思い、大学院に進みました。

(KF)大学院では、ファッションを研究したのですか?

 洋服を作るまえに、まずは布作ろう!って思って、柄のデザインから始めたんです。大学院に行くときには「ファッションをやります!」って言っていたのに、結果、1着も作りませんでした。

(KF)大学院在籍中の2013年には、コッカプリントテキスタイル賞『inspiration』に応募し、審査員特別賞を受賞されています。

賞をいただいた後に、本気でテキスタイルをやってみようという気持ちになり、フィンランドにポートフォリオを持って出かけていったりしました。その話をコッカの方たちに話したら、ガッツを見込まれて(笑)、では布を出してみようか、という話になったのです。

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▲コッカプリントテキスタイル賞『inspiration』に応募したポートフォリオ。

(KF)その布が、2016年6月にデビューした「KESHIKI」というわけですね。

 ブランド名は、最初は自分の名前のYumi Yoshimotoにしようかと思ったのですが、「風景画を飾るように生活を彩る布」というコンセプトと連動したブランド名のほうがいいかなと思って、「KESHIKI」(景色)にしました。

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▲「KESHIKI」カタログ制作用に撮影されたこの写真は、ブランドイメージを象徴するものになった。

(KF)布メーカーとの初めての布づくり、どんなことから始めたのですか?

 着想から布ができ上がるまで1年くらいかけて作りました。私のポートフォリオを見ながら、コッカの担当者さんと相談しながら、進めていきました。最初はどういう柄が求められているかよくわからなくて・・・。画材もクレヨンとか色鉛筆とか使ったのですが、レイヤーを分けて描いていなかったり。

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(KF)布をデザインし、制作するうえで、こだわったのはどんな点でしょう?

 1枚の布としての完成度をあげるために、生地の中に柄が全部おさまるよう、耳までプリントしてもらいました。この方法は染工場さん的には難しいそうなのですが、協力していただきました。

(KF)自然や日常の風景を描きながら、その柄はまさに抽象画のようですよね。

 布を飾ったときに、風景が見えるような、そんなことを意識しました。第1弾の「weekend city」は、新宿のネオンのようなイメージ。濃い色を地にして。

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▲2016年に発表した「weekend city」。

(KF)ひとつのコレクションごとに3柄発表していますが、どんなふうにバリエーションを考えたのですか?

大柄と小柄を織りまぜて。小柄というより、どこをとっても楽しめる柄をというリクエストがあったので。「この柄はワンピースを作るための柄です、のように用途が決まっているよりも、お客さんの想像が膨らむような柄にしてほしい」とアドバイスされました。

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▲2016年に発売された「KESHIKI」の第1弾の3柄。

(KF)実際、布ができ上がったときはどんな心境でした?

 反物ができ上がってきたとき、これで売れるかな、作家色が出すぎていないかとドキドキでした。

(コッカ・櫻井)吉本さんが布博に「KESHIKI」を持っていってくれて、それを見たバイヤーさんがウチに入れたいっておっしゃって注文をくださったりすることもありました。吉本さんのSNSでの発信のおかげもあり、ジワジワとファンが広がっています。布だけ見ると、どうやって使うのか、ちょっと難しそうに思えるのですが、実際に作品に落とし込まれると、ぐっとイメージが湧くし、使ってみたくなりますね。

(KF)「KESHIKI」では、生地にもこだわっていますよね。

 ビエラという綾目になっている生地を使った柄もあるのですが、これはしなやかさが出て、表面がきれい。柄の細かいところがつぶれずに表現できるんです。服地っぽいのがいいのかな、でも、薄すぎると小物やインテリアに使いにくいのもよくないと思案し、30ビエラという厚さの生地を選びました。第2弾では、さらにバッグや小物作りにも向いている、綿麻キャンバスの布も加えています。

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▲30ビエラで作った第1弾の「soramoyou」。幾重にも重ねた細い線の上に流れる雲のような白線がリズムよく配置されている。

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▲第2弾の30ビエラ。生地幅いっぱいに邸宅を描いた「goutei」

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▲第2弾の「jutakugai」は、張りのある生地感の綿麻キャンバス。パッチワークされたように隙間なく並んだ小さな家々が描かれた柄で、小物作りにも向いている。

(KF)ほかにライトプリペラも使っています。

 ライトプリペラは細番手ですが、ざっくりした感じで、軽いので、インテリアにも服地にも使えます。

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▲第2弾の「denen」はライトプリペラ。風合いのよい綿麻生地は、洋服にもインテリアにも使える。

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(KF)今後の活動予定を教えてください。

  2018年もKESHIKIシリーズは布博に出展します。あとはアパレルブランドさんとのお洋服やファッション雑貨のコラボレーション企画が2018年春に発売予定です。それと、YUMI YOSHIMOTO の新作の生地やプロダクトを準備しています。これも来年発表予定です。

(KF)コッカファブリックの読者に一言メッセージをお願いします!

  大柄も気軽に使っていただきたいです。ぜひ手に取ってみてください!

どうもありがとうございました。