2015年にコッカプリントテキスタイル賞『inspiration』で準グランプリを受賞した坂本あこさん。東京造形大学大学院デザイン科を卒業後、食をテーマにデザインするテキスタイルブランド「GOCHISOU(ごちそう)」を立ち上げました。2018年1月、コッカより「OYATSU(おやつ)」を発売。美味しいものを食べたときのようにひとを幸せにさせるテキスタイルを目指しているというあこさんにお話を伺いました。
もともと絵を描くのが好きで、小学校、中学校とずっと美術は得意な方でした。図画工作の時間は本当に好きで、自ら進んで写生大会に行ったりするほどでした。賞をもらったこともありました。小学校低学年のときは画家になりたいとか言っていたんですけど、年齢があがるにつれ、勉強するようになり、クリエイティブな職業は選ばないだろうな、普通に大学に行くんだろうなと思っていました。
高校生になって進路を決めるときです。松山(愛媛県)の進学校に通っていて、普通の大学を目指していました。でも、やっぱり美術が好きで、自分が好きなものを仕事にできたらそれがいちばんいいなと思っていたので、兄に相談したんです。すると兄が「これからは技術革新で、ロボットが台頭して人間の仕事をやっていく時代になるから、ロボットができないクリエイティブな仕事はいいと思う」って言ってくれたんですよ。デザインしたり、クリエイティブな仕事は、ずっと人間が生み出していけるものだからと。
それがきっかけで、美術大学を目指そうと思い、いろいろと調べてみると、普通に家で勉強していても受からないとなって、高2の前に美術予備校に2年程通いました。
最初はプロダクトデザイン(工業製品)かファッション関係かの2択で迷っていたのですが、最終的に造形大学のテキスタイルに進みました。造形大学はプロダクトとテキスタイルの両方を受けていたのですが、造形大学の先生が紹介している内容を見て「こんなに面白い世界があるんだ」と知り、こちらに決めたのです。
大学院の2年間は、学部の4年間よりもずっと濃かったです。自分の制作研究とチームで取り組みプロジェクトが多くて、忙しい中でも、自分が制作と向き合い、試行錯誤する時間が必要でした。自分はテキスタイルで何を伝えたくて、どういうものとして見せたいのか、日常生活のなかでテキスタイルはどういう存在で、私はそこでどういうことを担えるのか、など。限られた時間の中で考え、研究し、それを成果として発表して、先に進んでいく。その繰り返しでした。
そうなんです。
染めと織りという2つの手段があって、私は染めの専攻でした。プリントって色柄をつけるしか選択がないじゃないですか。どんな柄をそこに表現していくのか、っていうことに尽きるので。用途を考えて作ったり、最終的に形として完成させて発表したり人それぞれですが、学生の頃は完成品のクオリティというよりも、そのプロセスが大事だったりするので、毎日朝から晩まで制作することが多かったです。
はい。ずっと食べ物や食について興味があって・・・。そのルーツは私が育った家庭、手作りにこだわっている母親の影響です。お菓子を作るときもあんこや生地から手作りしたり、いつも手作りにこだわっていました。幼い頃からその美味しさをずっと味わってきたんです。
日本の旬の食材というのも、地域によって違うし、「ああ、こういう味がするんだ」というのも母から学んだんですね。料理の仕方だったり、食材の勉強だったり。自然と学んでいった感じでした。
それが根本にあったので、テキスタイル以外に、私がすごく、猛烈に、興味があって取り組めるものといったら、食べ物の世界かなと思い、自分の知識や自分がいいなと思っているものや、「食」への熱意をテキスタイルにうまくからめて表現できないかなと思ったのがきっかけです。
それでいろんなパン屋さんやカフェ、レストランも行ったりしました。そういうお店をテキスタイルという視点で見てみると、「ああ、もっとうまく布とからめて、空間が表現できるんじゃないかな、テーブルをもっとこだわったりできるんじゃないかな」など、布を使えば、もっとお店づくりが楽しくなると思いました。
お店の独自の柄を作ってそれをテーブルクロスにするなど、布の表現の可能性っていろいろあります。そういうプロジェクトみたいなことができたらいいなと思い、食べ物をモチーフにし始めました。
今はパンなんですけど、2年くらいの周期でコレクションを変えていこうと計画しています。
ありがとうございます。それ、ひとつの目標として最初やり始めたのですけど。
何でパンか?っていうのはよく聞かれるんですけど、パンってやっぱりわかりやすくて、みんな幸せな気持ちになるじゃないですか、パン屋さんに行ったら。パンというモチーフは、いろんなジャンルがあるけれど、全部美味しそうだし、好き嫌いがないかなと思って。万人に好かれるんじゃないかなって。
それにパンを生地にしている人ってあんまりいないなって思ったんです。自分の手でもっとパンの魅力を、色と柄で表現できたらいいなと。パンの生地でバッグを作ったらパン屋さんに行きたくなったりとか、洋服を着てパン屋さんにお買い物に行ったりとか。そういう行動につながるといいなと思って。それでパンをモチーフにしたテキスタイルづくりを始めたんです。
思っていたよりも、生地の良さをわかってくれる人がいっぱいいて・・・。こんな大胆なパンってないよねとか、このリネン、色がすごくきれいだねとか。生地として見てくれる方が結構いらっしゃって、それが私的にはびっくりしました。
まず、「GOCHISOU」を知ってもらわないと意味がないので、いろんなイベントに出てみました。ひとりでも多くの方に「こういうブランドがあるんだ」って思ってもらえるだけでプラスかなと思っていたので。お店で声をかけてくれたらそこでイベントをやらせてもらったり、自分から声をかけていったりとか。そういう活動はやりましたね。
昨年(2017年)の春はちょうどイベントラッシュで、1か月に3回くらいはイベントに出るっていう感じでした。1つ1つが大きいわけではないんですけど。どのイベントに出ても、自分のブランドを知らない人がほとんど。そこで初めて出会ったり、ああ、「GOCHISOU」っていうブランドがあるんだって知ってもらったり・・・。じわじわと広まっていった感じはあるけれど、まだまだだなって思います。
そうそう、そうなんです。
個人でやっていて、まだ人を雇えるまでにはいっていないので。でも対面でいろいろと意見が聞けるし、お客さんとお話して、こういうのいいよねとか、要望にも応えられるので、それが手作りのひとつの売りじゃないですけど、個人でやっているプラスの面ではないかと思います。
はい、8月に1か月間。私は1か月は行かなかったですけど、初日から3日間、搬入も含めて行ってやらせてもらいました。
突然、メールが来たんです、台湾(台中)の「二階図書室」というギャラリーのオーナーさんから。手紙社さんかなにかのプロモーションの画像を見て連絡してくれたと思うんですけど。そのギャラリーがあるのは台中のおしゃれな地区でした。今、台湾ってリノベーションが流行っているんです。昔使われていたお店とか寮とかを改装して、そこにデザートショップやアパレルなど、いろんな飲食店が入っていたり、マンションの1室がお店になっていたりします。
そこは、すごい人がたくさんくる場所だったんですよ。観光バスが来るくらい。
そのギャラリーのオーナーは台湾の方ですが、日本が大好きで、日本の雑貨を中心にお店をやっているという感じで。日本の作家さんのブローチとか、昔の牛乳のフタとかを販売していました。
そこでワークショップもやりました。端切れを使ってガーランドを作ったんですけど。すごく素敵な場所で。土日マーケットを開いているんですね、ここの人が。
イベント期間中は、生地がよく売れたんです。台湾の人からすると、日本のものって高品質なイメージがあるらしく、このエリアでは日本のお店のようなアンティーク調のおしゃれな雰囲気のお店(特にカフェ)が多かったのも印象的でした。日本と似た感度の方が多いんだなーと感じました。
そうそう、そこからお客さんが増えて、台湾人からのお問い合わせがすごく増えました。今でも「『OYATSU』の生地、どこで買えるんですか」、「今度台湾に来るのはいつですか」とメールが届きます。「台湾に発送してもらえませんか」っていうリクエストもすごく多くなりましたね。今年も行きたいなって思っています。台北、台中、台南って、それぞれ来るお客さんも違うだろうし、しかも台北は圧倒的に観光客が多いようだし。
2015年の『inspiration』で出品作品を見てくれたコッカのデザイナーさんが気にいってくださり、ずっとコッカから生地が出せないかと思っていてくれたんです。パンをテーマにすると、「GOCHISOU」と一緒になってしまうので、お子さんにも使ってもらえるようなテイストの食べ物の柄がいいなということで。
はい、だいぶ違います。「OYATSU」は大量生産のため機械でプリントするので価格も安くなります。
めちゃめちゃありました(笑)。でも、もっと知ってもらえるんだったらいい、と思ったんです。独立して2年目だし、コッカさんが世に広めてくれる力と、私が地道に活動している広がり方って全然違う広がり方だと思うので。ホームソーイングする方とか、コッカからこんな生地を作っている人がいるんだって知ってもらえるだけでいいなと思ったので。
それ(価格が安い生地を出すということ)はもう覚悟でやらないといけないなと思いました。でも、自分の宣伝にもなるし、名前も知ってもらえるきっかけにもなるかなと。
今年(2018年)2月に初めて布博に、「GOCHISOU」と「OYATSU」、両方持っていったんですよ。すると、どちらも反応がよかったです。「GOCHISOU」の生地が以前よりも購入してくださる方が多かったような気がします。
そうなんです。「OYATSU」は「OYATSU」で反応もよくって。
はい、違います。「GOCHISOU」は主にリネンにこだわっていて、手捺染(てなっせん)という昔ながらの方法で染めています。
これがすごくマイナーな世界で(笑)。「OYATSU」の生地はオートスクリーンといって機械が全部染めてくれるんですよ。版の分け方というのは一緒なんですけど、染料が乾く前にわぁっと次の色をのせてしまうので、元の色と次の色を微妙に重ねることができないんですよ。手捺染はそれが可能なんです。
たとえば、青と黄色を重ねたら、緑ができるじゃないですか。それを重色(じゅうしょく)というのですが、オートスクリーンだと無理なんです。オートスクリーンだと1色ずつ版分けをしていって、それぞれの色は重なっていないんです。
重なったときの色の変化だったり、立体感や奥行きというのがだいぶ違うし、生地によっても発色や、微妙な滲みが違うので、それが面白いんです。色もすごく鮮明なので。
基本的に私が決めていいです、という方針だったので、私のほうで考えた案をいくつか出して、「こんな感じはどうですか?」というふうにやり取りしました。だいたいOKだったんですけど、マフィンの柄はもうちょっと総柄っぽく、水玉みたいな表現で、どこを切っても使えるような、というリクエストにより、生まれた柄です。
そうそう。用途として、小さく使ってもいいように、お子さんのものに使えるように、という、イメージがありました。
はい。「OYATSU」シリーズは、大人も使えるし、子どもの洋服にも使えるように。ターゲットを絞りました。
コッカさんからいただいた提案を一緒に考えました。もうちょっと生成りの生地がいいです、とか、綿麻の生地がいいです、とか、やり取りをさせてもらいました。
配色を考えるのが、結構、大変でした。食べ物ってやっぱり、食べ物自体の色があって、パンを青にすると、やっぱりパンに見えないし、食べ物らしくないと魅力につながらないので。3配色だと、どういう色のバリエーションがあるのか、どういうふうな色だったらニーズに応えられるかなとか考えました。
「GOCHISOU」ではあまり色が使えないので、「OYATSU」では表現が豊かに見えるようにと思って、いっぱい色を使わせてもらいました。
8月に愛媛で個展をします。昨年、松山城の近くの中心街に、マリメッコのデザイナー、石本藤雄さんがプロデュースするギャラリー&カフェ「MUSTAKIVI(ムスタキビ)」がオープンしたのですが、そちらで行います。
昨年、帰省中に訪れたとき、ちょうど店長さんとお話ができて、自分の活動のことをお話したら、「ぜひうちでやりましょう!」ということになって・・・。それで8月に、そこで新作のコレクションを発表しようと思っています。そのあと、東京のヒカリエ8階ギャラリースペースでまた開催する予定です。
パンはパンで、地域のパン屋さんとコラボレーションしたりするのが増えていくといいなと思っています。3月下旬に伊勢丹新宿店で行われた催事では、「GOCHISOU TEXTILE EXHIBITION」として、そのときに伊勢丹の地下のパン屋さん7ブランドとコラボして、新しい生地を伊勢丹オリジナルで作りました。伊勢丹ではその生地を使ったオリジナルのバッグを販売したんです。これは自分の既存の生地だけでなく、コラボでなにかできたらいいなと思い、提案させていただきました。
和食をテーマにします! 和食といってもすごくいっぱいあるので、和食の第1弾で、器をモチーフとした和食に合うようなテキスタイルになります。
はい。和食器って実はたくさん種類があります。器は和食の一部であり、器との融合なくしては和食は成り立たないのだと思います。和食が他国と違うのは、一人ひとりをおもてなしする日本人の心が根底にあり、その為和食器の種類も豊富です。様々な造形と用途に合わせた器は、昔からあった日本人の美意識を感じます。そんな和食器の魅力が伝わるようなテキスタイルを作りたいと思っています。数多くの種類の中でも、出雲の出西窯や小鹿田焼など、産地によっていろいろ個性があるので、いくつか厳選して描いていきたいです。
いろいろと見に行ったりして、情報収集したいと思っています。地域を盛り上げるイベントにしたり、地域の器をテキスタイルにしたことで、広がっていく可能性というのがいろいろあるかと。いろいろな窯元さんの生地ができたら面白いなあと思っています。
パンはパンで、全国にいっぱいパン屋さんがあるので、それぞれ地域で盛り上げるプロジェクトとして貢献できたらいいなと。食とテキスタイルというので、盛り上がっていけたら嬉しいなと思います。